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自殺志願者【人間の怖い話】【ホラー】

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※実話を元にしていますが、プライバシー保護の為、この文章はフィクションを多分に含みます(各種名称、特徴等)。よって事実と完全に一致しません。

以前、道路交通誘導警備をしていたときの、元同僚の体験談です。

杉田さん(仮名・男性)の前職は、有名な観光スポットの案内役だ。

お客様を誘導したり、お土産ショップの会計をしたり、エレベーター係をしたり、アトラクションのアナウンスなど、仕事は多種多様だった。

杉田さんは、その仕事が好きでやりがいを感じていたそうだ。

これは、杉田さんが、そんな大好きだった仕事を辞めなくてはいけなくなった、とある事件の話。

その日、杉田さんは、上司に呼び止められた。

お身体に障がいのあるお客様がご来場するので、案内係をしてほしいとのこと。

杉田さんは、介護の知識が皆無だったため、不安ではあったが、こころよく引き受けたという。

そのお客様は、一人で現れた。

ご年配の男性で、視覚に障がいがあり、ほとんど何も見えないとのことだった。

それだけではなく、片足も不自由でゆっくりとしか歩けない。

ただ、本人いわく、「頭はしっかりしているので、たまには一人でにぎやかな場所へ出かけたい」と思い、外出したそうだ。

杉田さんは、そのお客様の手をとり、ゆっくりと歩き出す。

散歩のように、景色や、にぎやかな周囲の雰囲気を楽しみながら、二人でいろいろな話をした。

家族の話、

仕事の話、

戦後の、貧しい時代を必死に生き抜いた、こども時代。

詳細は、ここでははぶくが、杉田さんは、昨日のことのようにその時の会話を覚えているそうだ。

多くのお年寄りがそうであるように、自分の人生を語ることが、本当にうれしい様子だったそうだ。

「ありがとう。君は本当に良い青年だ。

こんな年寄りの、話を一生懸命聞いてくれて、道案内をしてくれて。

ああ、今日は本当に、良い日だった。」

そんな風に言ってもらえる時こそ、杉田さんは、仕事にやりがいを感じた。

多くの接客業がそうだろう。

「人の役に立てた」と感じる瞬間は、本当にうれしいものだ。

最後に、屋上へ登ってみたいというリクエストを受けて、いっしょにエレベーターへ乗った。

よく景色が見たい、風を感じたいというから、落下防止フェンスのぎりぎりまで誘導した。

本当にそれは善意の行動だった。

「うわっ!うわああああああああああ!!!」

それは突然の事だった。

先ほどまで、あんなにおだやかだった、お客様が突然叫び声を上げ始めた。

持っていた杖を投げ捨て、フェンスをよじ登り始めたのだという。

一瞬、何が起きているのか、

杉田さんは呆然としたが、慌てて、よじ登るお客様のベルトをつかんだ。

「お客様!!何やってるんですか!!やめてください!!!」

必死になって止めに入る。

信じられないほどの強い力だったそうだ。

「ああああああ!!うわあああああああ!!!!」

めちゃくちゃに暴れる、お客様。

必死でつかんでいたのに、杉田さんの手は、ベルトから離れてしまった。

お客様はフェンスを越えた。

その瞬間は、スローモーションに見えたという。

コマ送りのように、ゆっくりと落ちていく、お客様。

逆さまに、頭から落ちていく瞬間、

目が合った。

お客様は笑っていた。

そこから後の事は、記憶から抜け落ちているそうだ。

おぼろげに、警察の事情聴取を受けた記憶。

状況や、周囲にいた他のお客様やスタッフの証言、監視カメラの映像などから、事件性なしと判断された。

あまりのショックで、杉田さんは、仕事を続けられなくなった。

「今でも、時々、夢に見るんだ。」杉田さんは言った。

真っ黒に、にごった瞳。

信じられないほどの、強い力。

まるで、何かに魅入られているようだったと。

それを話している杉田さんの目が、普段と違ったどす黒い光を放っていた。

もしかしたら、「それ」に魅入られているのは杉田さんも同じではないのか。

いまでは、彼と連絡も取っておらず、杉田さんがどうなったのかわからない。

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